早いもので、妊娠していた妻ももう8ヶ月になる。妊婦仲間では胎教なるものが行われているとのこと。
胎教ねえ、科学的に見てどうなのよ?なんて考えていたら、胎内記憶に関する記事が。
胎内記憶:幼児の3割が鮮明に語り 横浜の産婦人科医が調査(毎日新聞)
要約すると、幼児には胎内記憶がある可能性があり、親子で語り合って絆を深めて欲しい、というもの。
要約してわかるのは、前段と後段が繋がらないってこと。べつに親子の絆を深めるのに胎内記憶云々は関係ないと思うが。
調査を行っている横浜市の産婦人科医、池川明さんは調査を始めるきっかけについてこのように話している。
池川医師が胎内記憶に関心を持ち始めたのは7年前、助産師から小学1年の孫が書いた作文を見せられてからだ。作文には「ぼくがおかあさんのおなかにいるときに、ほうちょうがささってきて、しろいふくをきためがねのひとにあしをつかまれて、おしりをたたかれました。こんどはくちにゴムをとおしてきて、くるしかったのでないてしまいました」とあった。
そりゃ偽記憶じゃないの?
似たような経験を同じ毎日新聞の元村有希子記者が理系白書ブログに書いている。
私は物心ついてからそんなことを聞かれた覚えがある。
そのときには、親から吹き込まれた新たな記憶が加わってしまっていて、自分でも覚えているのか、教わったのか分からなかった。
「おへその穴からお父さんが見えた」みたいなストーリーだったと思うが、これは胎内記憶ではないだろう。
どうやらこの医師よりもこの記者の方が理系的センスが良さそうだ。
胎内記憶に関するこの記事の評価はこちらが詳しいので、簡単にしよう。人間の脳は胎児期にはほとんど完成しているし、聴覚のような感覚器官は8ヶ月程度で完成するようだ。機能的な面から言えば、胎児や誕生のときの刺激が脳に何らかの影響を及ぼす可能性は否定できないが、それが具体的な記憶となっているとはきわめて考えにくいだろう。
さて、話を胎教に戻そう。胎教は、胎児のときに良い刺激を与えてあげることによって脳に良い影響を及ぼす、という説の上に成り立つ行動だ。注意しなければいけないのは、胎児が刺激を受けるだけでは胎教にならない、ということだ。脳に影響がなければいけないし、しかもそれが良い影響でなければいけない。
まずは、一般の妊婦の意識についてみてみよう。
胎教、赤ちゃんに通じた?
・こちらの話していることがわかっているような気がした。(京都・34歳)
・毎日話し掛けていると、呼びかけによって胎動が起こることがよくある。(滋賀県・38歳)
・胎動のあとにポンとお腹を叩くと、すぐに反応があった。感動した。(京都・32歳)
・いつも聞いている音楽を聴くと、胎動が激しくなるような気がする。(宮城県・31歳)
それって単なる気のせいでは・・・
仮にお母さんからの刺激による反応だったとしても、その刺激によって脳に良い影響がなければ教育とは呼べないわけで。たとえば、急に耳に息を吹きかけられたらビクッとするけれど、それを続けたからといって教育とは呼べないのと同様。確かに胎児からの反応があれば感動はするけれど、それは単なる親の自己満足に過ぎないかもしれないってことを自覚しておかなければならない。
さらに、胎教に関する科学的な言及がないか調べてみると、産婦人科デビュー.comなるサイトを発見。ここでは「科学的に解明されてきた『胎教』の重要性。」などと謳っている。
その中身はというと・・・
最近の産婦人科では、4D超音波エコーでお腹の赤ちゃんの映像を、お母さん自身でも見られるようになってきました。口や手足を動かしたり、外からの音に驚いて両手をパッと広げたり、指を吸ってみたり、少し笑っているのでは?と思うような映像も見られるのです。それは間違いなく、お腹の赤ちゃんが立派に“心”を持ち始めて、一人前になっていることを意味しています。
外からの音に驚いて両手をパッと広げたり、ってのはただの反射ではないのか。べつに胎児は“心”を持っていないなどと言うつもりはないが、一人前というのは明らかに言いすぎだろう。
他にはこんな説明も。
“お腹の赤ちゃんは外の景色を見ることができるのではないか”と思わせる事例が多数あります※。お母さんと赤ちゃんはへその緒でつながっているので、お母さんの感覚器を通じて電気信号のような形で映像が伝わっているのかもしれません。
※
■赤ちゃんがお腹にいる時、花を指さして「キレイなお花ねー」と話しかけていたが、1歳半になった頃、何も教えていないのに花を指さしてキレイというようになった。
花がキレイだという感覚は胎教によるものなのか。ってことは、任意のモノに対して「キレイな○○ねー」と話しかけていれば、子どもは○○を指さしてキレイというようになるのだろうか。なんか無性に試してみたくなってきた。
結局のところ、科学的に見て解明されてきたと言えそうなのは
『脳の受け皿』は生後6ヶ月までに決定してしまうという研究発表があります。例えば、英語のある発音を生後6ヶ月までに聞かなかった場合、それ以降はその発音に反応できない、ということがあるのです。「え!生後の6ヶ月間しかないの?」と思わないでくださいね。妊娠3ヶ月くらいから胎児の脳の中に記憶した痕跡のようなものが見られたりします。すなわち、お腹にいるときから赤ちゃんの脳は“受け皿の用意”をはじめているわけですから、お腹の中にいる時間も含めると十分『脳の受け皿』の用意をすることができます。
という程度のものだけだった。これにしても、この研究発表にどの程度の信頼性があるかは不明だし、仮にこの説が正しいにしても、胎児に教育を施すことによって『脳の受け皿』にどのような影響を及ぼすのかはまだまだ不明な点が多い。この程度の証拠で、
明るい!元気!天才!人から好かれる!育てやすい!・・・『胎教』は、必須項目。
などというキャッチコピーでネズミさんたちの広告に誘導するってのはいかがなものか。
もうおわかりだろう。結局は
※この情報ページはワールドファミリー株式会社の提供で産婦人科デビュー.COMが取材・ページ作成いたしました。
こういうことだ。
べつに科学的根拠に乏しいからといって、胎教に意味がないとか、胎教グッズを買ってはいけないなどと主張するつもりはない。たとえ裏付けがなかったとしても、胎教の効果の確からしさと胎教に費やすコスト等を天秤にかけて判断するのであれば、どのような選択であってもそれなりに合理的な判断だと言えるだろう。ただし、そのためには効果の確からしさをできるだけ正確に見積もらなければならない。そのためには、情報がしばしばコマーシャリズムによって歪められていることに気を配る必要があるだろう。
( 追記:ここでとりあげたように、科学的根拠が薄いにもかかわらず、科学的に証明されたかのような表現を用い、体験談と組み合わせて、特定の商品が効果があるかのように錯覚させ、購入するよう誘導するという手法は、いわゆるバイブル本商法に極めてよく似ている。昨年摘発されたアガリクスのように薬事法違反に問われるわけではなく、死亡例などの実質的被害が出るわけでもないのでさほど大問題にはならないかもしれないが、摘発の危険性が少ない分かえって悪徳業者の参入の余地があり、金銭的被害は今後増加するかもしれない。)

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