槌田敦「CO2温暖化説は間違っている」を読む(2)
前回は槌田氏の新ネタを読んだので、今回は本丸に入ることにする。
本丸とは2章のタイトルにあるように『気温上昇が「原因」、CO2増加は「結果」』という主張のことだ。この主張の歴史は古く、環境経済・政策学会 和文年報 第4集や京都大学原子炉実験所での講演記録・1998.12.22の頃からその主張は変わっていない。この本を持っていない方でも同様の主張がWeb上で読めるので、詳しく知りたい方はそちらを参照のこと。
正直言ってツッコミどころが多すぎて全てに言及すると疲れるので、できるだけポイントを絞って解説することにする。
槌田の主張はこうだ。
この章では、大気中のCO2濃度は、人間活動とは関係がなく、気温の上昇による結果であったことを説明する。
すなわち、大気中のCO2濃度の増加が原因で温暖化が進行したのではなく、気温(海面温度)の上昇で海水中のCO2が大気に放出され、大気中のCO2濃度が増えたのである。
p32
この主張の根拠となって、槌田論でもっともよく引用されるのがKeelingによるこのグラフだ。
キーリングもびっくりのCO2温暖化否定論
この図を引用し、槌田はこのように書いている。
彼らは、気温およびCO2濃度のどちらも長期的な視点で見れば上昇しているという点と、季節変化をはずして短期(1年)的な変化について【図表2-3】のようにまとめたのである。
この図表によれば、CO2濃度の変化は、気温の変化を後追いして、半年~1年後に増減している(キーリング 1989年)。つまり原因は気温であり、CO2濃度は結果である。
p38
なるほど、確かにCO2濃度と気温には相関があるようにも見える。しかし、このグラフにおけるCO2濃度は単なる観測されたCO2濃度ではないことに注意してもらいたい。縦軸の真ん中が0になっているのがわかるはずだ。ではこのCO2濃度がどのようにして導かれたのかを見ることにしよう。
この図は槌田敦「CO2温暖化説は間違っている」を読む(1)の図表1-3 で示した実際に観測で得られたCO2濃度から化石燃料の消費量から見積もった推測値を引いたものだ。グラフで見せると下のようになる(下のグラフはKeelingら、1995より作成)。
つまり、図表2-3のCO2濃度は単純な実測値ではなく、化石燃料由来のCO2を除いたときの変動をあらわしていることになる。一方の気温は実測値なので、このグラフが示すのはCO2濃度のわずかな揺らぎと気温との関係ということになる。このあたりの説明についてはこちらの記述も参照のこと。槌田氏もこの記述に言及している。
しかし、多くの気象学者はこの都合の悪い事実を無視しつづけた。しかし、上記根本著『超異常気象』(1994年)を読んだ人々から疑問が増えてきて、キーリングの発表後15年もたって、ようやく二本気象学会天気編集委員会は統一見解を発表することになった(河宮 2005年)。
p39-40
このあたりの記述はアポロ月着陸捏造説(もちろんトンデモ説)に対応したNASAやNASDA(現JAXA)の説明に対する反発と相通ずるものがあって楽しい。
さて、槌田はキーリングがこのグラフから何を読み取ったかについてこのように書いている。
気象学者キーリングは、1章で紹介したように南極とハワイでCO2濃度の精密測定をして、CO2温暖化説に根拠を与えた人である。そのキーリングが、CO2温暖化説をひっくり返す事実を発表したのである。
彼は、気温変動が地球表層のCO2放出源や吸収源に影響を与えた結果この微妙な不規則変動が現れたとしているが、それ以上の論評をしていない。つまり、気温が原因でCO2濃度は結果であることを認めたのである。
p38
気温が原因でCO2濃度は結果であることを認めた、というのは論理的には間違っているとは言えないだろう。ただし、気温が原因でCO2濃度は結果であることから、CO2濃度が原因で気温は結果であることを導くことはできない。地球温暖化FAQ:二酸化炭素と温暖化は因果関係が逆?でも説明しているように、因果関係はどちらか一方しか成立しないという性質のものではなく、両立しうるのだ。だから、これをもって「CO2温暖化説をひっくり返す事実」と説明するのは間違っている。
では実際にこのグラフから何が読み取れるかをグラフ(図4)で見てみよう。
槌田図表2-3はCO2の人為的排出分、グラフでいうと青い部分を除いた部分の変動を見ている。つまり、グラフの赤い部分の変動を見ていることになる。CO2濃度変動のうち、この赤い部分の変動が温度の変動によって説明できるというのがキーリングの趣旨であって、決してCO2濃度変動全てが温度の変動によって説明できると言っているわけではない。キーリングの説はCO2濃度変動が主に人間活動由来であることを補強するものであって、否定するものではないのだ。槌田はその点について全く理解していないと言っていい。
既に書いたように、キーリングの説はCO2温暖化説にとって都合が悪くもなんともない(むしろ都合がいい)し、キーリングの説を無視なんかしていない。
この構図は、進化論を理解していない人が、分子進化の中立説を根拠にダーウィン進化論を否定するときとよく似ている。もちろん分子進化の中立説はダーウィン進化論を補強するものではあっても、否定するものでは全くない。既存の説とちゃんと整合性がとれているにもかかわらず新しく提唱された説を否定論の根拠としてしまうってことは、そのような主張をおこなう者は既存の説も新しく提唱された説も両方とも理解していないということを意味する。既存の説を理解していない人がなにやら変な主張をするのがトンデモさんの特徴なのだが、このような人が主張する説が主流となり、認められた例はない。おそらくこれからもないであろう。
参考文献
Keeling, et al., Nature 375(1995)666-670
| 固定リンク
« 親父から手紙が来た | トップページ | 三角魔法陣 »




コメント
温度で説明できない増加分が、『エントロピーの排出に対応する』ことになるのでしょうね。議論が面白くないです。
投稿: | 2006年8月12日 (土) 15時37分
上のコメントはアホか ?
エントロピーっていうのは、エネルギーの収支を全て含めたものなの。だから槌田氏の温度の説明も、槌田氏の批判しているキーリングの説も、エントロピーの1つなの。
あと科学的議論は面白いとか、つまらないなんてのは二次的なんだよ。論理的であることと、事実に忠実であるかが重要なの。
投稿: おおくぼ | 2006年8月15日 (火) 23時30分
昨日から温暖化問題を考えてみよう、と決心したのですが、最初に出くわしたのが、ネット上でのCO2否定論。
特に、CO2は気温の後追いをしている、という例のグラフから、気温がCO2量を駆動するのだ、と言う説のおかしさを考えていました。初心の悲しさ、答を出せませんでした。
・・・いや、明快ですね。スッキリしました。
気温がCO2のエンジンなら、排出CO2は気温と同時に観測されないと変ですからね。
投稿: 雪野 | 2007年10月30日 (火) 01時20分