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2006年4月19日 (水)

家畜ふん尿を適切に処理するには

エチゼンクラゲと中国産野菜の意外な関係」で中国における富栄養化の問題について述べたが、日本だって他人事ではない。

富栄養化の原因としては生活排水や産業排水、農業廃水などが挙げられるが、その中には家畜ふん尿によるものも少なくない。

その問題の解決に一役買うであろうソフトが開発されたとのこと。

ふん尿:牧草地に撒く適正量ソフト開発 酪農学園大など

毎日新聞 2006年4月18日 13時31分
 河川や湖沼の富栄養化をもたらす牛のふん尿対策について、酪農学園大(北海道江別市)や道などは牧場内に撒(ま)くふん尿の適正量を割り出せるソフトウェア「ふん尿利用計画支援ソフト」を開発した。ふん尿は牧草の肥料として利用されているが、散布過多になるケースも多く、環境保全に役立ちそうだ。

 ソフトは(1)牧場の面積(2)土壌区分(3)土壌診断値(4)牛の頭数(5)ふん尿の分析値--などを入力すると、その牧場に合った適正量が示され、まき過ぎを防止できる。また、土壌に不足している栄養素の補てん量、環境に影響を与える可能性のある硝酸やアンモニアなどの環境負荷推定値なども表示される仕組みだ。

 北海道の根室・釧路地域では、乳牛を何百頭も飼育する大規模経営の酪農家が増えており、窒素やアンモニアを大量に含んだふん尿が雪解け時期に河川に流入するケースもみられる。国は04年11月に家畜排泄物管理適正化法を施行し、ふん尿をためる施設の整備を義務付けた。しかし、ふん尿をいつ、どこの牧草地にどれくらい散布するかは、施肥標準や土壌診断など複雑な計算が必要なため、多くの酪農家は自らの経験に頼っているのが実情という。

 ソフト開発に伴い、中標津町の根釧農業試験場などで17日、公開デモンストレーションがあり、酪農家ら約60人が参加した。同農試の三枝俊哉・草地環境科長は「目で分かるソフトだ。まずは酪農家に興味をもってもらうことが重要」と話した。

 ソフトは無料。同大ホームページから申し込むことができる。

【本間浩昭】

記事横の写真を見たら知り合いが写っていてびっくり。

まあそれはそれとして、解説に移ろう。

家畜ふん尿は確かに栄養塩(窒素やリンなど)を含んでいて汚染源となりうるものだが、本来は決して忌み嫌うべきものではない。家畜ふん尿の栄養塩はもともとは餌となる牧草や飼料由来のものなので、ふん尿を牧草地や畑に帰してあげることによって過不足なく、うまい具合に物質が循環することになる。

ところが、1960年代になって、飼料の需給構造が変化した辺りから状況は変化していく。このころから、飼料の輸入が急増し、物質の循環構造のバランスが狂い始めた(リンク先の[統計で見る畜産のすがた]→[輸入]→[飼料の輸入]を参照)。それまで牧草地や畑地から収奪した栄養塩の量と家畜ふん尿として排出された栄養塩の量はほぼ一致していたのに、飼料が輸入されるようになってからは家畜ふん尿として排出された栄養塩の量が相対的に多くなってきたのだ。これを考慮せずに家畜ふん尿を全て牧草地や畑地に還元すると、余分な栄養塩が吸収されずに残ることになる。残った栄養塩は雨水等によって河川や湖沼を汚染する、という構造になっている。
そうならないようにするためには、余分なふん尿を撒かなければよいことになる。その量を計算してくれるのが今回紹介したソフトというわけだ。

このソフトのメリットとして、酪農家の経験に頼らずに適正な散布量を算出できるという点を挙げているが、おそらくこれには裏がある。
実は、酪農家の経験による適正な散布量と行政側が算出する適正な散布量は意味合いが異なる。
酪農家にとっての適正な散布量とは、通常は最も牧草の生育が良くなるような量であるのに対して、行政側にとっての適正な散布量とは、環境負荷と牧草の生育のバランスがとれた量となる。
一般的に、家畜ふん尿の散布量と環境負荷には正の相関がある。また、家畜ふん尿の散布量と牧草の生育の良さの関係は、山型のカーブを描く。つまり、撒けば撒くほど生育が良くなるが、撒きすぎるとかえって生育が悪くなる。
酪農家にとっては、環境負荷を少なくしても大してメリットはないので、牧草の生育が最良となるような(できるだけ多い)散布量を選択する傾向にある。一方、行政側にとっては、環境負荷はかなり問題なので、散布量をできるだけ抑えようとする傾向にある。もちろん、牧草の生育があまりにも悪いのは行政にとってもデメリットが大きいので、その辺りのバランスを考えた上で計算を行うわけだが。
このようなギャップがあるので、散布量についてできるだけ行政側の意図した数値に持って行きたいという考えがあるのではないだろうか。

それはさておき、このソフトが利用され、家畜ふん尿が適切に散布されたとして、注意しなければいけない点がある。
それは、結局散布されないままに終わった家畜ふん尿をどう処理するのか、という点だ。野積みにしてたのでは全く意味がないので、し尿処理や堆肥化等によって環境中へ流出しないような処理を行わなければならない。北海道東部の根室・釧路地域は大規模な酪農が多くて比較的そのような処理が進んでいる地域ではあるが、適切な処理が行われるよう注意しなければならない。

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