実は私もつい最近までこんな法律の存在を知らなかった。
電気用品安全法4月本格施行 中古家電市場に困惑広がる
電気製品の安全確保をメーカーに義務づける電気用品安全法が4月1日に本格施行(猶予措置の期限切れ)されるのに伴い、安全を証明する「PSE」マークが付いていない中古家電製品は半数以上が販売できなくなる。仙台市内のリサイクル店ではこれらの商品の買い取りをやめており、知らずに売りに来た人が困惑している。店側も在庫を売り切ろうと、安売りを始めた。
PSEマークの対象は450品目。このうちテレビ、オーディオ、楽器など259品目は4月から、マークがないと販売できなくなる。PSEマークの登場は2001年4月で、同年3月以前に製造された機種にはマークがない。
宮城野区榴岡のハードオフ仙台駅東口店では2月11日から、PSEマークがない中古家電の買い取りをやめた。在庫を今月中に売り切ろうと、アンプや楽器アダプターを1―5割引きで販売中だ。
「店にある中古家電のうち3割はPSEマークがない」(小林健治店長)といい、売れ残ればごみとして廃棄するしかなくなりそうだ。
「リサイクルを推進してきた国が、ごみを生み出す法律をつくるなんておかしな話だ。閉店した同業者もいる」と話すのは、宮城野区銀杏町のリサイクル店「イガラシ」の五十嵐治さん。春先には、仙台を離れる学生や単身赴任者が中古家電を売りに来るが、今年は断らざるを得ないケースが多い。「PSEについて知っている人は1割にも満たない」といい、客の間にも困惑が広がっている。
影響はリサイクル店以外にも及んでいる。青葉区北目町のオーディオ店「仙台のだや」は、新品の高価なアンプやスピーカーを購入する客には、今使っている機器の下取りに応じてきたが、買い取れなくなった。農機具も規制対象となるため、中古品を売れなくなる農家も出そうだ。
引き続き認められるレンタルや輸出に活路を見いだす業者もいるが、小規模店ではそれも難しい。
経済産業省製品安全課は「19万枚のパンフレットを配るなど周知に努めてきたが、問い合わせが殺到している。PR不足だったのかもしれないが、猶予期間延長は考えていない」と話している。
[電気用品安全法]電気製品の安全確保をメーカーや輸入業者に義務づける法律。電気用品取締法の改正に合わせて基準を厳しくし、2001年4月に施行された。メーカー側が商品を検査した上でPSEマークを表示する。感電などを防ぐためコンセントやコードなどは第三者の機関が検査する。法施行から5年間は猶予されてきたが、テレビ、冷蔵庫、オーディオなど259品目は3月末で猶予期間が終わる。11年までにPSE対象450品目すべてが販売禁止になる。輸出や個人間の売買は規制対象外。
(河北新報) - 2006年3月4日14時39分更新
簡単に要約すると、電気用品による危険及び障害の発生を防止するために、安全性が確認されたもの以外の電気製品は売ってはいけません、ということだ。政府による概要の説明はこちら。
今回問題になっているのはこの法律そのものではなく、この法律が制限している「販売の制限」(法第27条)の範囲がこれまでPSEの概念が存在しなかった時代の中古品の販売にまで及んでいることだ。
もちろん、そういった中古品が一律に販売できなくなるわけではなく、一定の検査をすれば販売が可能となる。しかしその検査費用は、中古家電販売業の多くを占める中小企業にとっても、また販売されるはずの中古品の販売価格に占める割合からみても決して安いものではない。また検査自体が電気製品の負荷となり、故障する可能性もゼロではなく、その点からも損失が見込まれている。
この法律に対する中古家電販売業者の反対の理由は「自社の保有する資産の価値の減少」や「国が推進するリサイクル社会政策との矛盾」というもの。
さて、ここまでが解説。ここから先はこの問題についての私自身の考え。
まず、この法律自体の理念は理解できる。この法律が出来た背景についてはこちらを参照のこと。
しかし、業者側が反対するのはともかくとして、消費者側からもこれほどの反対意見があるというのは少々予想外だった。さて、この中でどの程度の人が中古品を使用することによる事故のリスクを考慮していたのだろうか。
「ものを大事にしよう」という考え方はもっともなものだ。しかし、「安全なものを使おう」という考え方も同様にもっともなものだ。そして、大抵の場合両者は相反する。ものを大事にしようとして古いものを使えば、一般的には新しいものよりも危険度が高くなる。逆に、安全性を重視して新しいものを求めればものを大事にする思想に逆行することになる。こういった関係にあるものをトレードオフの関係という。環境問題にはほとんど常にこのトレードオフの関係がつきまとってくることになる。安全性と環境負荷、あるいは快適性と環境負荷の関係といったものがそうだ。この関係を頭に入れて考えてみると、「国が推進するリサイクル社会政策と矛盾している」という批判は必ずしも正しくないことがわかるだろう。安全性や快適性と環境負荷はどちらも大切である以上、どちらかのみを考慮した政策を推進している、という現状の理解そのものが誤りなのだ。実際はそんなに偏った政策を推進しているわけではなく、両者のバランスを保ちながら、快適性を少しだけ削って環境負荷を減らし、また今度は環境負荷を少しだけ増やして安全性を高め、といった少しずつ変えていくやり方をしているのだ。
ただし、これは政府の政策が間違っていないということを示しているわけではない。バランスを取っているとはいえ、それが現実的に見て本当にバランスが取れているという保証はない。私自身、この法律には多少の違和感を持っている。だからこそ、「リサイクルか安全性か」という極端な思考を止めて、どの程度の施策が現代社会に最も受け入れられるか、という思考をして欲しいと思う。
そのような思考を導入しない限り、見直さなければ「なぜ昔のものを大切にしないのだ」という批判が、また見直した結果事故でも起きようものなら、「なぜあんな危険な製品を規制もなしに野放しにしていたのだ」という批判が起きるのではなかろうか。このようなバランス思考を欠いた批判は官僚叩きにはもってこいだが、それは社会のためにはならないはずだ。
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